太陽系の制圧に手間取って尚、今しばらくの猶予を欲する歯車王に対し、ついに機械神は今回が「最後のチャンス」だと宣告する。 無能な機械に用はなく、ただ破壊するのみという旨を歯車王に伝えて、その姿を消す機械神。 機械化城の大広間にひとり残された歯車王は、自分が無能な機械ではないことを証明し、処刑を回避するべく、ゴウザウラーへの必勝の決意を固めるのだった。 一方、地球では、ゴウザウラーを絶対に倒せる機械化獣の素材を探すギーグが、冷蔵庫の重量感と頑丈さに着目し、それを素材とした機械化獣アイスクラッシャーを誕生させていた。 作戦実行現場における、上司の歯車王と部下のギーグ。この両者が「打倒ゴウザウラー」という目的を普段よりも強く意識し、志向を一致させることができた今回。 機械王としてのプライドから「最後のチャンス」に闘志を燃やす歯車王が、全身全霊をかけて勝負に臨めば、これまでの戦闘では得られなかった結果が付いてくるものと期待する。 |
打倒ゴウザウラーを果たし、自分が無能な機械ではないことを証明せんとする歯車王は、地球に飛来するや巨大改造で機械化獣アイスクラッシャーを強化。機械化獣活動現場へとやってきたザウラージェットに対して攻撃を仕掛けると、熱血合体したゴウザウラーにも猛攻を加え、優勢な戦闘を展開する。 実は、此度の戦闘前に、ゴウザウラーのメインパイロットである拳一が盲腸に倒れるという、ザウラーズにとっての非常事態が発生。 そのため、ゴウザウラーの操縦はサブパイロットのひろみが代行することとなり、ザウラーズのメンバーを一人、しかもメインパイロットを欠く形となったゴウザウラーは、本来の力を発揮することができない状態となっていた。 あまつさえ、強化前のアイスクラッシャーが行った破壊活動で氷結した春風町の病院では、拳一の盲腸を手術することが叶わず、ザウラーズはかつてない危機的状況に追い込まれていたのである。 しかし、この緊急事態に、ザウラーズメンバーのひろみの母である外科医の小夜子が、ゴウザウラー内部の保健室で拳一の盲腸手術を執刀。 この手術のために、動きが鈍るゴウザウラーは劣勢を呈し、これに好機を見出した歯車王は、ゴウザウラーに真正面から組み付いて電撃を加え、とどめを刺しにかかる。 だが、あと一歩というところで拳一の手術が無事に終了し、その報せを受けたひろみ操縦のゴウザウラーは、反撃のウォータービームをアイスクラッシャーの至近距離から発射。 その結果、アイスクラッシャーは体中の氷を溶かされるという強力なダメージを被り、ゴウザウラーからも引き剥がされてしまう。 間髪入れず、必殺のザウラーマグマフィニッシュがアイスクラッシャーに炸裂。 機械化獣が爆発を起こす中、勝利への執念を見せる歯車王だったが、その大破寸前にやむなく脱出する。 ひろみが代行操縦したゴウザウラーに敗れる形で、機械神からの「最後のチャンス」を活かせなかった歯車王は、処刑を免れられぬ身となってしまうのだった。 |
戦闘経験を積んだザウラーズが操縦するゴウザウラーが、もはや歯車王の手に負えない相手となったことは、前戦の結果からも明らかである。 しかし、それも「万全の状態のザウラーズ」が相手だった場合の話で、そういう意味では、メインパイロットの拳一が盲腸に倒れた今回は、まさしく千載一遇のチャンスだったと言える。 この状況に加えて、ギーグが素材を吟味したうえで生み出した機械化獣アイスクラッシャーを得た歯車王が「最後のチャンス」に全力で臨んだのだから、決して勝利の可能性がゼロだった訳ではない。 では、これだけの有利な状況を得て、どうして歯車王が勝利することができなかったのか。それには、歯車王が置かれた状況と、ザウラーズの子供たちが置かれた状況が、強く関係している。 ザウラーズの子供たちは、自分に与えられた役割をこなしながら、出現した機械化獣を倒すにはどうすればよいかを思案し、最善と思われる方法を考えながら、勝利を重ねていっていた。 無論、全ての戦闘が理想的な勝ち方という訳ではなかったし、必ずしも子供たちが一致協力できていた訳でもないが、侃々諤々のやり取りが子供たちの間で行われ、相互に関係しあっていたことは間違いなく、そうした事実が大事だったと言える。 一方の歯車王は、"太陽系機械化計画"を任された機械王として、ゴウザウラーという思わぬ敵に苦戦しながらも、なんとか地球を機械の惑星に変えようと、使命遂行に勤しんでいた。 歯車王には、ギーグという機械人の従者が付き従っているが、その役割は歯車王の補助程度のものであり、地球の機械化自体は、あくまでも歯車王一人に与えられた使命だったと言っていい。 まさに歯車王は、孤軍奮闘していた訳だ。 しかしながら、この歯車王が「孤軍奮闘」していたところにこそ、機械化帝国の組織的な問題点が隠されている。そしてそのことは、歯車王と機械神の会話の内容を考えた瞬間に、一気に表面化してくるのである。 それではここで、歯車王と機械神の会話の内容に注目してみよう。 月の機械化城において、歯車王が機械神に謁見した回数は、全部で5回。だが、その5回もあった謁見の場で、歯車王はゴウザウラーのことを一度も機械神に報告してはおらず、機械神もゴウザウラーのことを歯車王に尋ねたりはしていないのだ。 機械神は、歯車王を見限った後、ゴウザウラーの打倒に重きを置いた電気王を後任の指揮官としている。つまり機械神は、歯車王が報告せずとも、1993年の地球にゴウザウラーが存在していることを知っていた訳である。 そうした状況だったにもかかわらず、機械神と歯車王のどちらからも、ゴウザウラーに関する話題が出ることは、ついぞなかった。 では、いったい何故、機械神と歯車王の間で、ゴウザウラーという敵に対する情報の共有が行われなかったのか。 その理由については、機械化帝国が持つ結果主義という観点から考えると、推測は容易となる。 機械神は原子王を使って、エルドラン共々、ゴウザウラーを6400万年前の世界に封じ込めておきたかったハズだが、この策略は実質的に失敗している。 そうした事実が、機械神と歯車王のコミュニケーション不足に拍車をかけたことは、まず間違いない。 何故なら、結果主義者の機械神が、部下である歯車王に、自らの策略が失敗したことを悟られるわけにはいかないからである。 一方の歯車王も、ゴウザウラーなる邪魔者のために、地球攻略が思うように進んでいないなどとは、機械神に報告を上げることができなかったに違いない。 「たかが地球のロボット」であるゴウザウラーに連戦連敗している現状を報告する、それ即ち、自分が無能であると言ってしまうようなものだからだ。 つまり、ゴウザウラーという敵に対する情報の共有が行われなかったのは、機械化帝国が、過度に結果だけを重視する組織であったからだと言える。 そして、こうした過剰な結果主義こそが、機械化帝国が抱える組織的な問題点であり、それがひいては、歯車王の戦績に影を落としていくことにもなった。 また、"太陽系機械化計画"の早期達成を望む機械神が、己の影響力の大きさも考えず、忠誠心の高い歯車王に過干渉していた事実も、結果を含めたゴウザウラーと歯車王の戦闘内容に多大な影響を及ぼしていたという実情を思うと、看過できない悪手だったとは言えないか。 明確なヒエラルキーが存在する機械化帝国において、決して追及されることはないが、歯車王が敗北を重ねる責任は、当然、機械神にもあった。 歯車王が命令に対して非常に忠実だったことが、機械神の責任をより重くしている点を、見逃してはならない。 ともあれ、機械化帝国が結果主義の組織である以上、機械神は、自分の信念以外には関心がない、純粋な戦士である電気王を指揮官に据えた時点で、地球を攻略できるように努力すべきであった。 原子王を使った策略以前に、機械神は「心」を機械化帝国のタブーとするなど、多くの秘密を抱えていたのだから。 |