第30話「ワン・ツー・ピンチ!」


概要

月の機械化城。その大広間には、歯車王と電気王の石像にワイングラスの中の液体をかけ、2人の前任者を「愚かなる機械王達」と蔑むエンジン王の姿があった。 そんなエンジン王の前に機械神が現れ、数多くの惑星を機械化した実績を誇るエンジン王が、地球の機械化にいつまで手こずっているのかと、その仕事の遅さを責める。 しかしエンジン王は、自分は無能な前の2人とは違うため、機械神の期待には背かない旨を伝え、この返答を聞いた機械神は姿を消す。
するとその直後、機械神への謀反を胸に秘めているエンジン王は、ワイングラスの中の液体を熱してそれに着火すると、ワイングラスを大広間に投げ付けた。 当然、部屋全体の一部ではあるものの、炎が上がる大広間。 エンジン王が無言で去っていった後、誰もいなくなった大広間では、歯車王と電気王の石像が、誰にも顧みられることなく、虚しく炎上崩壊していた。
そんな大広間を出たエンジン王は、ギルターボにメンテナンスを施すと、ゴウザウラーの更なるデータ収集のために機械卵を射出させる。 この機械卵の地球接近を認めた防衛隊は、地上に到達する前に空中で破壊せんと新型の高性能ミサイルを発射するが、逆にこれを機械卵に吸収され、機械化獣デッカードの誕生を促してしまうのだった。
一方、ザウラーズでは、TVの超能力特集に感化されたザウラーズの面々が、双子にはテレパシーがあるということからワンとツーに期待を寄せていた。ワンとツーも上手くいけば一躍大スターになれると言われてその気になり、トランプの透視によるテレパシー能力の実験を行うが、50回中3回という低い成功率から、スター誕生失敗の責任をなすり合い、遂には姉妹喧嘩を始めてしまう。
果たして、機械化獣出現の報せを受けて発進するザウラージェットの座席に、ワンとツーの姿はなく、ワンは金太のコクピットに、ツーは洋二のコクピットに、それぞれ同乗していた。この通信係が2人とも不在という事態を重く見たエリーの判断によって、ザウラーフォーメーションによる分離前に、ワンの方は元の座席に連れ戻される。だが、ツーの方が定められた座席に戻ることのないまま、ザウラーズは機械化獣との戦闘に突入していくのだった。

実行

機械化獣デッカードとの戦闘を開始するザウラーズだったが、ザウラーズ到着前に機械化獣と交戦し、マッハプテラに回収されていた武田防衛隊長官が、その攻撃合図に待ったをかけた。 武田長官曰く、機械化獣の角は、防衛隊で開発された新型高性能ミサイルでできているため、もしこれが爆発すれば、春風町は半径1キロに亘って吹き飛んでしまうとのことだった。
そこでザウラーズは、キングゴウザウラーに合体して、機械化獣を安全な場所に運ぼうとするが、ツーが指定の座席に戻らない限り、キングゴウザウラーへの合体が不可能であるという事実が発覚する。
そのため拳一は、ミサイルになっている機械化獣の角部分をザウラーブレードで切り離すという、大博打を敢行。グランザウラーがそのミサイルを落下直前にキャッチしたことで、一か八かの賭けは成功したかに見えた。 しかしこのときのショックで、ミサイルの自爆装置が作動、あと5分でミサイルが爆発するという事態が引き起こされてしまう。
この非常事態にザウラーズは、ゴウザウラーとマグナザウラーの2体が機械化獣の相手をして、その間にグランザウラーがミサイルを海に捨ててくるという作戦を立案。 ミサイル廃棄の使命を帯びた洋二はミサイルを格納したグランザウラーをグランジェットに変形させるが、ここでエンジン王が搭乗するギルターボが飛来。 グランジェットを海中に墜落させると、デッカードを合体機械化獣に変えて、ゴウザウラーとマグナザウラーの2体と、力比べを始めるのだった。
その頃、グランジェットの内部では、洋二が墜落したときのショックで気絶してしまっていた。 そのため、グランジェットに同乗していたツーがハッチを開けて、ミサイルの海中投棄を試みるが、墜落の煽りで損傷していたハッチは開かず、ミサイルを捨てることが叶わない。 事ここに至って、自分がミサイルの自爆装置を解除する以外に、助かる道がなくなってしまうツーだったが、ツーは恐怖から上手くミサイルの自爆装置を解体できないでいた。 が、ワンの励ましに勇気を奮い起こしたツーは、武田長官の指示を受けながらコードを順番に切断、最後の1本を切れば自爆装置が停止できる段階まで作業を進めていく。
ところが、このタイミングで受けた合体機械化獣の攻撃によって、通信システムが遮断される故障が発生。ツーはザウラーブレスから受け取っていた指示を、一切得られなくなってしまう。
残る赤と青の2本のうち、青を切れば自爆装置を停止でき、赤を切ってしまうとミサイルの大爆発を招いてしまうという瀬戸際に立たされながら、 通信システムの回復には時間がかかるため、即座にザウラーブレスによる通信を再開することができず、情報を伝える術がないザウラーズ。 だが、自爆までのタイムリミットが残り10秒を切り、絶体絶命の危機に陥ったツーが、心の中でワンに助けを求めると、それを受けたかのようなワンは、「青を切って」と叫び、 更にその声が聞こえたかのようなツーは、青のコードを切断して、無事に自爆装置をストップさせた。
果たして、ゴウザウラーとマグナザウラーの2体にデッカードがとどめを刺さんとした正にそのとき、戦場に舞い戻ったグランジェットが、ゴウザウラーとマグナザウラーをピンチから救い出し、更に、ツーが指定の座席に座ったことで、キングゴウザウラーへの合体も完了する。
こうして始まったキングゴウザウラー対合体機械化獣デッカードの戦闘は、エンジン全開で挑むデッカードをキングゴウザウラーが押し返し、パンチを放ってデッカードの両腕部を粉砕するなど圧倒。 そして、その勢いのままに発動したザウラーキングフィニッシュによってデッカードは大爆発を遂げ、分離状態のザウラーロボを相手に、終始優勢だったエンジン王は、キングゴウザウラーの驚異的な力の前に敗退してしまうのだった。

分析

そもそも、エンジン王が知りたかったのは、ザウラーロボの持つ「力」だったハズだ。 ここで言う「力」とは単純な「パワー」のことであるが、このときのエンジン王は、キングゴウザウラーという形態には、まだこだわっていなかったためか、グランジェットを撃墜してから、ゴウザウラーとマグナザウラーの2体に、力比べを挑んでいる。 そして、3体のザウラーロボが合体した、キングゴウザウラーの持つ、驚異的な「パワー」を目の当たりにしたエンジン王は、改めてキングゴウザウラーという形態に注目し、次戦以降、その点にこだわるようになったものと思われる。
ただ、今回の戦いの中で興味深かったのは、ザウラーズの一卵性双生児・ワンとツーの姉妹が見せたテレパシーのような力である。無論、最後のコードは二者択一でしかなく、その正答率が50%のものであったことを思えば、ツーが青のコードを選んだのは、単なる「偶然」と考えることもできる。 しかし、自然界の動物にも、テレパシーのようなものが見られる以上、簡単に「偶然」の一言だけで片付けることもできないだろう。
そもそも、「人間」も「ヒト」という動物である訳だ。そうした観点から考えると、人間が自分の身の危険を仲間に知らせる能力を持っていたとしても、決して不思議ではない。 だから、今回の場合も、ワンとツーの双方が、互いに必死の思考波を飛ばし合った結果として、テレパシー能力を発揮することができたという可能性を、完全に否定することはできないのである。
しかし本当にテレパシーが使えていたのだとしても、一卵性双生児という非常に密接した関係のワンとツーが文字通りの絶体絶命の危機に瀕して、初めて呼び覚ますことができた程に、 テレパシーというのは、「人間」が進化していく過程で、ほぼ完全に忘れてしまった能力だといえる。 その、忘れ去られた能力を発揮できたのなら、それはまさしく奇跡と言う他はなく、如何に人間の体や心というのものが、不可思議なものであり、謎や神秘に満ちているものであるかが分かる。
エンジン王は、このような「人間」を計算・分析して、その心が生み出す力を、自分のものにしようと画策するのだが、 こんな訳の分からない生物を、理屈的に計算・分析しようとしたことや、その心が生み出す力を自分のエネルギーとして吸収しようとしたこと自体、最初から無理があったように思えてならない。
何より、当の「人間」自身が、その心を完全に理解している訳ではないのだから。
また、今回印象的だったのは、エンジン王が歯車王と電気王の石像に向かって「愚かなる機械王達」と呟くシーンである。 この歯車王、電気王の石像に、エンジン王がワイングラスの中の液体をかけたとき、歯車王と電気王が、それぞれ血涙を流しているように見えるのだ。
エンジン王からすれば、ゴウザウラーに敗れたばかりではなく、機械神の配下として動いていた歯車王や電気王など、愚かに思えても仕方がないだろう。 しかし、歯車王は自分の誇りをかけて、電気王は自分の信念を貫いて、それぞれが最終的には、機械神に造反した訳で、もし彼らが生きていて、エンジン王にこのような評価を下されたとしたならば、絶対に黙ってはいなかったハズだ。 だから、偶然と言えども、エンジン王がワイングラスからかけた液体を利用して、血涙を流しているように見せた歯車王と電気王の石像は、そんな2人の悔しさを代弁しているかのように映ってしまう。
かたや、普段は喧嘩をしていても、いざ一大事には相手の身を案じ、奇跡的にテレパシーのような力を発揮して、遠く離れていても、その根っこの部分で通じ合うことが可能だったザウラーズのワンとツー。
かたや、エンジン王に愚かな前任者と蔑まれ、その石像が、ワイングラスからかけられた液体を利用することによって奇跡的に歯車王と電気王の悔しさを代弁しながらも、その気持ちが通じ合うことがなかった機械化帝国の機械王。
共に「会話」が行われながら、互いの気持ちを感受することができる幸と、できない不幸を、これらの「奇跡」からは感じることができる。
そして前任の機械王達を見下し、機械神に対する謀反を企むエンジン王が、機械化帝国の中で真に信頼しているのは、そのボディにメンテナンスを施すほど愛情を注いでいる、ギルターボだけだということもよく分かる。
兄弟同然の歯車王と電気王を無能と蔑視し、親同然の機械神に取って代わる野心を、その胸に秘匿する一方で、息子同然のギルターボには、情愛の気持ちを向けるエンジン王。その姿は、"全宇宙に鋼鉄の秩序を"という目的を共有しながらも、 組織全体でコミュニケーションが取れず、その結果として、相互理解することができていない機械化帝国の内情を、端的に窺えるものと言えるのではないだろうか。

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