第35話「まぼろしの美少女戦士」


概要

ザウラーズでは、ボンが雨の日に目撃した赤いレインコートの美少女に一目惚れをしていた。 その赤いレインコートの美少女の正体は、雨水で髪が乱れた、同じザウラーズのはるえだったのだが、そうとは知らないボンは、はるえが落としていったハンカチを、自分だけの宝物と言うなどして、他のザウラーズのメンバーと盛り上がっていた。
そして、その話を聞いていたエリーが、それはボンにとっての恋の始まりであると言ったことで、ザウラーズの盛り上がりはエスカレート。更に、画力に優れるひろみが、レインコートの美少女のモンタージュイラストを描いたことで、より一層、沸き立ったザウラーズは、 ボンにイメージチェンジを図ったコーディネイトをすると、赤いレインコートの美少女を見つけ出すべく、捜索活動を繰り広げた。
そうする中で、赤いレインコートの美少女の手がかりであるハンカチを見たはるえは、美少女と騒がれている人物が自分のことであることに気付くと、そのことをボン以外のザウラーズ全員に告白。 そして正体を明かすしかないと周りから言われたはるえは渋々正体を明かそうとするのだが、赤いレインコートを着たはるえの後ろ姿を確認したボンは、結婚を迫ってはるえに突進。そのため、驚いたはるえは思わず逃走し、逃げるはるえをボンが追いかける展開となってしまうのだった。
一方、そろそろ地球の機械化を進めないと機械神の怒りを買うことになってしまうため、これ以上機嫌を損ねるのは得策ではないことを理解しているエンジン王は、しかしゴウザウラーのデータを、十分に集めるまでは、地球を離れるわけにはいかなかった。 特に、ゴウザウラーがピンチに陥ったときに発揮される計算外のパワーのデータを、なんとしても入手しなければならないと考えるエンジン王は、この点で考えが一致しているギルターボに機械卵を射出させ、それより誕生した機械化獣ブランドルを、ゴウザウラー誘き出しの目的で暴れさせるのだった。
やがて、この機械化獣は、はるえとボンを引き合わせたザウラーズをも襲撃。そして、その攻撃からなんとか逃れたザウラーズは、ボンとはるえを救助するためにも、ザウラージェットとグランジェットを発進させる。
こうして、今回の戦いの幕は切って落とされたのだった。

実行

機械化獣が暴れる現場に到着したザウラーズは、ザウラーフォーメーションを行い、各ザウラーロボに分離すると、機械化獣を迎撃せんとするが、各ロボットが勢揃いしたことを確認したエンジン王が巨大結合を施し、機械化獣を合体機械化獣へとパワーアップさせる。
そこでザウラーズ側も、ゴウザウラー・マグナザウラー・グランザウラーの戦闘形態で合体機械化獣に対抗、戦闘が開始されるが、ボンとはるえが搭乗していないため、ゴウザウラーのパワーが、いつもより低下しているというハンデを負っている上、 あまつさえ合体機械化獣が得意とする空中戦を展開されたことで、機械化帝国側優勢の幕開けとなっていた。
その頃、ボンに追いかけられていたはるえは、ザウラーズが出動していたことに気付くと、ゴウザウラーに拾われる形で合流。更にはるえを追いかけていたボンも、はるえがゴウザウラーの中に収容されていく様子を後ろ姿から確認する。 そのため、拳一がレインコートの少女をゴウザウラーの中に避難させてくれたのだと勘違いしたボンは、気合い十分でゴウザウラーへと乗り込むのだった。
こうして、全員が揃ったことで、ようやくキングゴウザウラーへの合体を果たすザウラーズ。 一方、キングゴウザウラーが登場したことで、早速計算外のパワーを見せて貰おうとするエンジン王は、合体機械化獣の胸から溶解液を連射して攻撃。これに対して、キングゴウザウラーも、キングバズーカとキングランチャーで反撃してくるが、 こうした応酬の中で、キングゴウザウラーの一瞬の隙を突いたエンジン王は、見事、キングゴウザウラーの左肩に、溶解液を直撃させることに成功するのだった。
この攻撃を受けたキングゴウザウラーの左肩部では爆発が発生し、左肩からその内部が溶かされていくという緊急事態に陥ったため、教授は、河水を利用して溶解液を洗い流すという解決手段を拳一に指示。 その結果、溶解液を洗い流すことはできたものの、今度は河水によって内部の回路がショートする二次災害が引き起こされてしまい、ザウラーズは、キングゴウザウラーの左腕の機能低下という、新たな危局を迎えてしまうのだった。
そこで、流入した河水を非常用ハッチから外へ出すという、二次災害の打開策を打ち出した教授は、事態は一刻を争うため、ハッチに一番近く、マーボーよりも素早さに優れるということを理由に、ハッチを開ける役にはるえを指名。 そして、廊下の中に流入した河水に濡れ、雨の中のレインコートの少女の状態となったはるえが、ハッチまで向かっていく様子をモニター越しに見たボンは、レインコートの少女を戦いに巻き込んだことに憤ると、動力室を飛び出して、 はるえの眼前までやってくるのだった。 しかし次の瞬間、合体機械化獣の攻撃で爆発が起き、ボンの頭上から鉄骨が落下。大事には至らなかったものの、ボンは気を失ってしまう。 それでも、レインコートの少女=はるえの呼び声に短時間で目を覚ましたボンは、朦朧とした意識の中、レインコートの少女が応援してくれているという思いだけをエネルギーに変えて、なんとかハッチを開放し、キングゴウザウラーの機能を回復させることに 成功するのだった。
一方、戦いを優位に進めるエンジン王は、追い込めば追い込むほどキングゴウザウラーが計算外のパワーを発揮するに違いないと読むと、遠隔戦から接近戦に方針を転換し、 合体機械化獣の胸部に位置する鉤爪を使用して、キングゴウザウラーの頭部を攻め、そこに強力なダメージを与え続けていた。 ところが、機能を回復させたキングゴウザウラーがトリケラファイヤーを至近距離で放射したため、この反撃に怯んだ合体機械化獣は、続けざまにパンチを叩き込まれて瞬時に逆転を許してしまう。
結局、合体機械化獣は、ザウラーキングフィニッシュによって敢えなく爆発四散してしまい、戦いに敗れたエンジン王は、次戦で計算外のパワーの秘密を突き止めることを誓いながら退却していくのだった。
なお、今回の戦闘終了後に、ボンは赤いレインコートの少女が、はるえであった真実を知ってショックを受けるが、幻のレインコートの少女=はるえに一目惚れしたのと同じ場所で、はるえとは別人の赤いレインコートの少女を目撃し、改めて恋心に火を付けてもいることを、最後に付記しておく。

分析

絶体絶命のキングゴウザウラーを救い、エンジン王の操る合体機械化獣を敗退させたもの。それは、ザウラーズメンバー・ボンの、赤いレインコートの少女に対する恋心であった。 そもそも、何故ボンは雨に濡れたはるえを美少女と見間違えたのか。それは雨に濡れたはるえの外見が、ボンの理想とする女の子像に合致したために他ならない。 一目惚れの恋というのは直感的なもので、特に男性の一目惚れの場合は女性の外見に惹かれやすいのが特徴であるらしいが、今回の場合、ボンが理想としていた女の子像と、雨に濡れたはるえの外見が合致して、 奇跡的にボンの目に、自分が理想とする相手がいるように見えた結果、一騒動を引き起こした反面、勝利の鍵ともなり得たのだろう。
そして今回のボンの行動原理は「思い込み」の一語に全て集約される。
自分が理想としている赤いレインコートの少女がいると思い込み、その子が自分の名前を呼び、応援してくれていると思い込んでいたからこそ、ボンは、鉄骨が落下してきた衝撃による気絶状態から短時間で覚醒し、更に覚醒した直後には 意識が朦朧とした状態だったにもかかわらず、ハッチの扉を開けて、キングゴウザウラーを危機から救うことができたのだ。
また今回の戦闘終了後、真実を知ったボンが改めて目撃した、はるえとは別人の赤いレインコートの少女は、恐らくボンだけに見えた幻覚であったと思われる。 それは、そこに誰もいないかのような反応を示して、ボンのことを心配するザウラーズメンバーの様子から推測するしかないのだが、思い込みというものが、真実とは違う自分勝手な希望的観測であることを考えれば、 ボンが最後に目撃した、赤いレインコートの少女は、ボンの思い込みの内容が「赤いレインコートの少女はいる」というものから「赤いレインコートの少女に実在していて欲しい」というものに変わった結果生まれた、文字通り「幻の美少女戦士」であったのだろう。
さて、こうした「思い込み」に陥ってしまう人間など、確かな計算をする機械人で構成される機械化帝国から見れば、滑稽な存在でしかないハズだが、本当に機械化帝国の構成員も、こうした「思い込み」に陥る危険性はないのだろうかと言われれば、疑問符が付く。 エンジン王は、キングゴウザウラーが、宇宙最強の力を持っていると見ており、それはほぼ疑いようのない事実なのだが、果たして、そのエネルギーが、自分に扱える代物であるかどうかまでは考えておらず、キングゴウザウラーを倒せれば、自分がその力を吸収し、使いこなすことができると思い込んではいなかっただろうか。
思い込みがプラスに働けば、今回のボンのように、底力を振り絞る奇跡さえ起こせるのだが、思い込みがマイナスに働いてしまうと、視野が狭くなり、目の前に見えているもの以外が見えなくなって、気付いた時には、既に手遅れになってしまうこともあり得てしまう。 エンジン王は、その野心故に、最強の力を求め続け、地球でザウラーロボに出会ってからはキングゴウザウラーの持っている力に固執し、その力を入手できた暁には自分が宇宙最強の存在になれると思い込み続け、信じ込んでいた。 そのキングゴウザウラーの強さの秘密はパイロットであるザウラーズの子供達が持っている心にあった訳だが、しかし心は、当のエンジン王ですら、最初は人間のマイナス要素と酷評していたものであったし、機械化帝国の中では、触れてはならない禁断のパワーとされてきたものだったハズだ。 そんな心を深く考えもせずにプラス要素と捉え直した挙句、自分のエネルギーとして利用せんとした辺りからは、キングゴウザウラーとの戦いを繰り返すうちに、エンジン王の視野が徐々に狭まっていき、やがて盲目的になってしまったような印象すら受けてしまう。 平常時の、聡明なエンジン王であったなら、キングゴウザウラーに宇宙最強の「心の力」を見出したとしても、心の本質を理解しようと努めただろうし、他人の言葉に耳を傾ける余裕を保つことができてさえいれば、ギルターボを失うという悲劇は避けられたかもしれない。
そして何より、最強の力を生み出す心を、機械である自分自身が持っていることに、エンジン王が最後まで気付くことがなかったのは、ある意味、究極の思い込みであった訳だが、 これと同質のことが機械化帝国の統治者たる機械神にも見受けられる。
機械神は、自分を生み出した心を持つ知的生命体が、戦争によって滅亡したことから、同じ過ちを繰り返さないために、不完全な心を持つ全生命体を抹殺し、全てを機械化することによって、完全なる鋼鉄の秩序を打ち立てることを目的としている。 つまり、機械神自身は、自分は心を持っている不完全な生命体とは違う、心を持たない完全無欠の機械であると思い込んでいる訳だ。 しかし、機械神の「心を持つ生命体は不完全で、心を持たない機械は完全」という思い込みが、機械化帝国の各惑星への侵略行為に繋がり、それが地球においては、ザウラーズ対機械化帝国という新たな争いの火種となっている訳で、 機械神が忌み嫌っている、心を持っている生命体が起こした戦争という過ちを、機械である自分達が宇宙各所で繰り返し、現在進行形で行ってもいる事実は、あまりにも皮肉が効き過ぎている。
以上のことから、どんな物事にも陰と陽の両面があり、心を持っていないハズの機械にも、心を持っているハズの生命体にも、良い面と悪い面の両面があることを窺うことができるが、 今回、ザウラーズのボンが起こした騒動は、思い込みがプラスに働いたときの底力と、マイナスに働いたときの妄覚という端的な形で、物事の陰陽両面の存在に気付かせてくれる、示唆に富んだ教材だと言える。

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